TCフォーラム研究報告2025年3号2版(2025年5月)5月5日改訂

TCフォーラム研究報告2025年3号2版【2025年5月公表】
グローバルな視角からの消費税減税をめぐる論点整理
~基礎的飲食料品への最適消費税率選択:「単一税率」、「ゼロ税率」、「軽減税率」~

石村耕治(TCフォーラム共同代表/白鷗大学名誉教授)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウクライナ戦争を契機としたハイパーインフレ、それに続くトランプ2.0政権の理不尽な相互関税政策で、世界は大きく揺れています。グローバルなスタグフレーションが心配され、世界中の国々が対応を急いでいます。

わが国でも、インフレ対策を急いでいます。国民、与野党をはじめとし各界から、「消費税減税」を求める声が相次いでいます。一時的な給付金の支給には概して否定的です。

これは、消費税率が固定されていることから、消費者/生活者が、「インフレによる消費税増税への法的な歯止め策」を求めている証拠ともいえます。

消費税減税にあたっては、新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争に伴う経済の激変への対応として諸外国が採る「期間限定」の消費税減税(時限減税)策を参考にすべきだとする声があります。恒久的な消費税減税ではなくともよい、という声です。

今回の一連の消費税減税の動きでは、逆進対策の強化、とりわけ、基礎的な飲食料品への消費税率の最適選択が問われています。つまり、「単一税率」、「ゼロ税率」、「軽減税率」のいずれを選択して、インフレで苦しむ消費者/生活者を救済するのが問われています。

ところが、消費者/生活者には最適と思われる「ゼロ税率」の導入には、いろんなクレイムがついています。この背景には、わが国特有の問題があります。経済状況の激変対応のための消費税減税策に、「インボイス制度の廃止」、さらには「消費税の廃止」の声も絡んでいることが一因です。

こうした事情もあり、わが国では、税率選択の問題に加え、「期間限定」の消費税の計画減税(時限減税)自体に対する消極的な声と、積極的な声が対立しています。

「消費税ソフトを替えるにはカネがかかる。だから消費税の時限減税には賛成できない」、「将来の税財源確保を考えると消費税減税にはにわかに賛成できない」、「インボイス制度廃止+消費税廃止につなげるには、単一税率にするしかない」。「基礎的な飲食料品へのゼロ税率導入は、10%税率適用の外食産業を壊滅させる」等々。

どの声も、「なるほど」と思います。と同時に、どの声も〝消費者/生活者ラスト〟になっているのではないか、と心配されます。

確かに、時限減税では事業者の消費税徴収・申告ソフトの変更などでの税務コンプライアンス・コスト増が心配されます。ただ、こうした声が財政当局の税収源確保優先の声と結びつくかたちで拡大されるのは、あまり好ましい傾向とはいえません。

消費者/生活者は主食のコメの高騰に苦しんでいます。しかし、政府や政治家は「食料安保を考えると、安価な外米への依存、開国は危険だ」といいます。現下の消費税減税論議は、どこかコメをめぐる〝消費者/生活者ラスト〟の声に似ています。

グローバルに見ると、「期間限定」の消費税(VAT/GST)の計画減税(時限減税)は、きわめてポピュラーな減税手法であることがわかります。

この研究報告では、世界各国の基礎的な飲食料品に対する税率選択や消費税の時限減税の実情を紹介します。消費者/生活者ファーストの消費税制を求めるには、世界の動きを知り、この島国にまん延するマインドコントロールを解く、あるいは頭の切り替えが必要かも知れないと思ったからです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆