新国税通則法の税務調査納税者のためのよくわかる対策Q&A

2013(平成25)年1月1日より、税務調査の手続きが大きく変わりました。
これまで税務調査の明確な手続き規定がないため、調査の現場では税務職員の強権的な言動や強要が行われることもしばしばありました。
しかし、2011(平成23)年11月30日の「国税通則法の一部改正」(以下、「新国税通則法」という。)により、税務調査についての手続きが具体的に定められたことで、税務職員にはこの法律を守り、従うことが義務付けられました。国税通則法の税務調査手続についての主な改訂点は、次の通りです。

  1. 「事前通知」が原則となりました。無予告調査は一定の要件に該当した場合に限られ、例外として規定されました。
  2. 調査終了時の手続が整備されました。終了通知は書面で、また調査結果の内容説明が義務付けられ、税務職員は修正申告の勧奨ができると規定されました。
  3. 帳簿等の「提示」「提出」を求めることができるとされ(罰則あり)、提出された帳簿書類等の「留置き(とめおき)」ができると規定されました。

これら調査手続きのほか、更正の請求期間が1年から5年に延長されましたが、これに伴い、税務署の増額更正期間が5年に、また、すべての事業者に記帳を義務化するなど、納税者の義務を強化する内容が盛り込まれています。私たちは国税通則法の改訂内容をよく理解し、税務調査の現場で納税者の権利を守るために主張していくことが大切です。
このパンフレット「納税者のための対策Q&A」を、税務調査に関する事前の学習や、実際の調査にあたって活用していただければ幸いです。

2013年3月

新国税通則法の下での税務調査が開始以後、国税庁は国税通則法の改正を受けて調査手続きが煩雑となったことから、調査件数が減少したことに対し、接触率を維持、あるいは向上させるための新たな方針を打ち出しました。
実地調査以外の多様な手法の効果的・効率的活用といい、多様な手法の例として、ハイブリッド調査=調査と行政指導の組み合わせをあげています。
そこで、国税庁の新方針に対応するために、Q22~Q26を追加しました。

2015年11月

Q&Aもくじ

Q1 新国税通則法は納税者の権利よりも義務を強化するものではないかという心配がありますが、どうなのでしょうか。
Q2 今でも税務署は高圧的な場合があるのに新国税通則法によってさらに強権的になることはありませんか。
Q3 事前通知は文書ではなく口頭で行われるということですが、具体的にはどういう手順・内容で行われるのでしょうか。
Q4 これだけの項目を電話で通知を受けるのはたいへんなことだと思いますが、全部聞かなければいけませんか。
Q5 事前通知はどのくらい前に行なわれるのでしょうか。
Q6 税務職員が指定した日時や場所を変更することはできるのでしょうか。
Q7 事前通知項目の中に、調査の目的がありますが、調査理由とは違うのでしょうか。その違いは何ですか。
Q8 調査対象となる税目を通知することになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
Q9 調査対象期間を通知することになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
Q10 事前通知であらかじめ調査対象となる帳簿書類や物件を示すことになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
Q11 事前通知が原則として義務付けられ、例外的に事前通知なしの調査が規定されましたが、どのような場合に事前通知なしの調査が行われるのでしょうか。
Q12 もし「事前通知なし」で税務署員が突然訪問してきたら、どのようにしたらよいのでしょうか。
Q13 税務署が勝手に得意先に調査に入りました。どうすればよいですか。
Q14 新国税通則法には、実際の税務調査を進めるうえで新しく「提示」「提出」が付け加えられましたが、どのような意味があるのでしょうか。
Q15 提出した物件を「留置く(とめおく)」ことができるという規定ができましたが、何でも持ち帰ることができるのでしょうか。
Q16 帳簿のコピーを求められたり、パソコンのデータを持ち帰りたいといわれたら、どうすればよいですか。
Q17 調査が終わったときの手続きはどう変わったのでしょうか。修正申告の勧奨が法律に規定されたということですが修正申告を強要されることはありませんか。
Q18 新国税通則法ではあらゆる処分に理由附記が義務付けられました。これは納税者の権利を保護するために有効でしょうか。
Q19 納税者がする減額の請求が1年から5年に延びましたが、これは納税者の権利保護に有効なのでしょうか。
Q20 諸外国では禁(きん)反言(はんげん)の原則から、調査終了後はふたたび同じ期間の調査はできないことが法律に規定されているとのことですが、新国税通則法ではどのようになっているのでしょうか。
Q21 今回、零細な白色申告者にも記帳義務が課されることになりましたが、その狙いはどこにあるのでしょうか。
Q22 2013年1月の新国税通則法施行以降、税務署は「行政指導」 「呼び出し調査(実地以外の調査)」 「質問応答記録書」といった手法をこれまで以上に積極的に用いて納税者への接触を図っていると聞きますが、これらも新国税通則法施行に関係する動きですか。
Q23 「行政指導」とはどのような手法で、納税者はどのように対処すべきですか。
Q24 「呼び出し調査」とはどのような調査で、納税者はどのように対処すべきですか。
Q25 「質問応答記録書」とはどのような書類で、納税者はどのように対処すべきですか。
Q26 「行政指導」や「呼び出し調査」、「質問応答記録書」をどのようにとらえたらよいですか。

Q&A

Q1 新国税通則法は納税者の権利よりも義務を強化するものではないかという心配がありますが、どうなのでしょうか。
A1 確かに、新国税通則法は税務職員の権限を強化して、納税者には義務を押しつける項目が多く含まれています。
しかし、日本国憲法は主権が国民にあることや、公務員が全体の奉仕者であることをうたっています。したがって、憲法に反して新国税通則法が納税者の権利を侵害することは許されません。納税者自身の権利を守るためにも新国税通則法の内容をよく理解する必要があります。
国税庁は、今回の国税通則法改訂に伴い税務職員向けに出した「事務運営指針」の基本的な考えの中で、調査は「納税者の理解と協力を得て行うものであることを十分認識した上で、法令に定められた調査手続を遵守し、適正かつ公平な課税の実現を図るように努める。」とはっきりと述べています。私たちは調査の現場で税務職員に税務調査の手続きについて法令を守らせる主張をしていくことが大切です。
【事務運営指針より抜粋】
・・・手続きの透明性及び納税者の予見可能性を高め、調査に当たって納税者の協力を促すことで、より円滑かつ効果的な調査の実施と申告納税制度の一層の充実・発展に資する観点及び課税庁の納税者に対する説明責任を強化する観点から、従来の運用上の取り扱いが法令上明確化されたところである。」
「調査がその公益的必要性と納税者の私的利益との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることを十分認識した上で、法令に定められた調査手続きを遵守し、適正かつ公平な課税の実現を図るよう努める。」
Q2 今でも税務署は高圧的な場合があるのに新国税通則法によってさらに強権的になることはありませんか。
A2 確かに新国税通則法には事前通知をしなくてもよい場合が定められ、修正申告の勧奨ができることが定められました。そして、罰則付きでの帳簿書類の提示・提出が要求できる規定など、納税者の権利を脅かしそうな規定があります。
しかし、一般の税務調査は「任意調査」であり、「当該職員の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と定め、強制調査でないことを明らかにしています。
任意調査ですから、納税者の承諾と協力の下で行われるのは当然のことであり、税務職員に強権的な言動があってはならないのです。そして、調査を受ける納税者は、毅然とした態度でのぞむことが大切です。

また、罰則の適用について、2011年11月18日の衆議院財務金融委員会で岡本榮一国税庁次長(当時)は「罰則をもって強権的に提示・提出要求をすることは考えておりません。あくまで納税者の方々のご理解、ご協力が得られるように努めまして、その承諾のもとに行うという従来の運用を変更することは考えておりません。」と政府答弁をしています。

Q3 事前通知は文書ではなく口頭で行われるということですが、具体的にはどういう手順・内容で行われるのでしょうか。
A3 法律で事前通知をすることが定められたのですが、実務上は「事務運営指針」で、事前通知の前に納税者及び税務代理人の都合を聞いて日程調整をするとしています。まず日程調整から始まるということです。
日程調整の連絡の際に、税務職員は予定する日時を言ってきます。変更できますのでこちらの都合を申し出て調整をします。日程等が決まったら、事前通知が電話により行われることになります。

事前通知の内容は以下の11項目となっています。
① 実地調査を行う旨
② 実地の調査を開始する日時
③ 調査を行う場所
④ 調査の目的
⑤ 調査の対象となる税目
⑥ 調査の対象となる期間
⑦ 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
⑧ 納税者の氏名及び住所
⑨ 調査を行う職員の氏名及び所属官署
⑩ ②及び③は変更が可能であること
⑪ ④~⑦で通知されなかった事項についても「非違が疑われることとなった場合」は調査が可能であること

Q4 これだけの項目を電話で通知を受けるのはたいへんなことだと思いますが、全部聞かなければいけませんか。
A4 原則として事前通知の手続きが法律に定められ、これらの項目をすべて通知することが義務付けられたので、税務職員はこれを守ることが調査の適法要件になります。1項目抜けても調査の適法性に欠ける可能性が出てくるのです。
したがって、税務署から事前通知の電話があった場合、落ち着いて一つひとつメモを取ることが大切です。最低でも20分前後はかかりますので、時間が取れないときは、「今、仕事で手が離せないので、10分後に電話してください」といったん電話を切るなどして、余裕をもって受けましょう。事前通知項目をチェックするための「事前通知チェック表」を最終ページに用意しましたので、コピーをして役立ててください。
事前通知項目にはありませんが、実地調査の日数を確認して最小限の日数にすること、実地調査に来る税務職員の人数、できれば氏名も確認するようにしましょう。
通知を受ける納税者もチェックするのは大変ですが、税務職員も負担になるのは明らかです。
法律には事前通知の方法は規定されていません。
後日「言った、言わない」というようなことにより調査の適法性を争うという場合も考えられます。今後の運動では、文書通知を求めていくことが必要でしょう。
Q5 事前通知はどのくらい前に行なわれるのでしょうか。
A5 法律には「あらかじめ」とだけしか書かれていません。そもそも事前通知をするのは、納税者の事情に配慮して、調査に応じることができる日時をあらかじめ打ち合わせることにあります。
国会では国税庁次長が「調査開始日までの相当期間の時間の余裕をおいて行うことになる。したがって、家の前から電話していきなり往訪するというような運用は考えていない。」と明確に答弁しています。(2011年3月25日衆議院財務金融委員会)
「今から伺いたい」というような突然の連絡があったら、当然断ることができます。
ドイツのように14日前までに事前通知を行うことが慣例となっている国もあるので、日本でも少なくとも14日前までには通知をするよう求めていくことが必要です。
Q6 税務職員が指定した日時や場所を変更することはできるのでしょうか。
A6 納税者が「合理的な理由」を示して税務職員の指定した日時・場所を変更するよう求めた場合、「協議する」ことが法律に定められました。
そこで「合理的な理由」とは何かが問題となりますが、納税者や税理士等の都合がつかない理由を述べれば問題ないでしょう。これは変更要求ですから、調査拒否になりません。
通達では、「例えば、納税義務者等の病気・けが等による一時的な入院や親族の葬儀等の一身上のやむを得ない事情、納税義務者等の業務上のやむを得ない事情がある場合は、合理的な理由があるものとして取り扱う」としています。これは、あくまでも例示でありこれに限定されるものではありません。日時や場所などの変更を主張することは当然の権利です。納得のいくまで協議を求めることが大切です。
なお、調査の事前通知前に日程調整が行われますが、日時を決定し事前通知が行われた後であっても都合が悪くなった場合、日程変更をすることができます。
Q7 事前通知項目の中に、調査の目的がありますが、調査理由とは違うのでしょうか。その違いは何ですか。
A7 「調査の目的」について、「納税申告書の記載内容の確認又は納税申告書の提出がない場合における納税義務の有無の確認その他これらに類する調査の目的」と規定しています。
つまり、調査の目的とは税務署が何を調査したいかその狙いを明らかにすべきものですが、調査の理由とは違います。
申告納税制度は、納税者の申告により税額を確定することを原則としています。したがって、調査があるのは例外中の例外です。
税務署が提出された申告書について調査するには、何らかの理由があるはずです。納税者が「なぜ自分のところが調査を受けるのか」理由を聞くことは当然のことです。電話で事前通知内容をすべて受け確認した後に、または、実地調査が始まるときに、調査理由を開示するよう求めましょう。理由が開示されれば、調査はその理由の範囲に限定されることになります。
Q8 調査対象となる税目を通知することになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
A8 事前通知で税目を限定することによって納税者は事前に通知された税目に限定して調査を受けることとなります。つまり、所得税の調査と言われたら所得税に限られることになります。
最近の調査では、例えば法人税調査の場合、法人税・消費税・源泉所得税・印紙税の調査を同時に行っています。この場合、事前通知で4つの税目を示す必要があり、通知した税目以外の税目の調査をすることはできないということになります。
ただし、調査途中に他の税目について「非違が疑われることとなった場合」に限り、その税目について質問検査等を行うことができることとされています。もし、通知された税目以外の調査を求められた場合には、税務職員に「事前通知で調査対象とした税目以外の税目をなぜ調査するのか」についての説明を聞いて調査を受けるか否かを判断するようにします。
調査を受ける必要性はないと自身が判断した場合には、その旨をはっきりと税務職員に伝えるようにします。
Q9 調査対象期間を通知することになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
A9 調査対象期間を限定することは、調査を受ける納税者の負担を減らすことに役立ちます。
ただし、新国税通則法で「更正の請求」(納税者が所得や税額の減額を税務署に請求すること)が1年から5年に延長となりました。これに併せて更正処分(税務署が税務調査にもとづき納税者の所得や税額を増額すること)の期間制限も3年から5年に延長されました(法人税はすでに5年となっています)。
したがって、所得税、消費税、相続税などの調査期間がこれに合わせて5年間になることが心配されます。
しかし、更正処分の期間制限を設けているのは、何年でもさかのぼって更正や決定がなされると、納税者は長い期間課税上の不安定な状態に置かれることになってしまうため、一定の期間経過後は更正や決定などが行えないようにするためです。ですから、税務署の更正処分の期間が3年から5年になったからといって自動的に調査期間が5年になるものではありません。
もともと、調査ができる期間は法律で定められていません。これまでと同様に、直前の年度を中心にした効率的な調査を行うよう要求していく必要があります。
Q10 事前通知であらかじめ調査対象となる帳簿書類や物件を示すことになっていますが、これはどんな意味があるのでしょうか。
A10 調査対象となる帳簿書類その他の物件をあらかじめ通知することが法律に定められました。
税務調査の範囲を広げないためにも、具体的な帳簿、例えば現金出納帳、総勘定元帳、請求書、領収書などと具体的に指定させることが重要です。漠然とした抽象的な通知内容なら、きっぱりとNOと言いましょう。
提示・提出を拒否すれば懲役1年以下又は50万円以下の罰金が用意されていることからしても、物件名を具体的に指定させることが必要です。
Q11 事前通知が原則として義務付けられ、例外的に事前通知なしの調査が規定されましたが、どのような場合に事前通知なしの調査が行われるのでしょうか。
A11 これまで、事前通知なし(いわゆる無予告調査)に関する法律の規定はなかったのですが、今回の国税通則法の改訂でこれが法律上認められてしまいました。新国税通則法では次のような場合にのみ、事前通知なしの調査ができるとされました。
まずその前提条件として、
① 納税者の申告内容、
② 過去の調査結果の内容、
③ 事業内容に関する情報、
④ 国税庁・国税局・税務署・税関がもっている情報、
を検討した結果、次のいずれかの要件を満たした場合、事前通知なしの調査ができるとしています。

❶ 違法又は不当な行為を容易にすると認められる場合、
❷ 正確な課税標準又は税額等の把握を困難にするおそれがあると認められる場合、
❸ 国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合。

なお、これまでは「現金商売だから」ということを事前通知なしの調査ができる理由としていましたが、単に不特定多数の取引先との現金決済取引をしていることのみの理由では、事前通知を要しない場合には該当しないと通達されています。
税務調査の事前通知手続を法制化した趣旨からすれば、そもそも例外規定は削除されるべきですが、当面は、上記要件を厳密に適用させる現場のたたかいが重要になってきます。
Q12 もし「事前通知なし」で税務署員が突然訪問してきたら、どのようにしたらよいのでしょうか。
A12 事前通知なしで突然税務職員が訪問してきたら、あわてずに「急な調査には応じられない。今日は都合が悪いので帰ってほしい。日程を調整して改めて来てほしい」と言って、帰ってもらいましょう。
その時に、税務職員の身分証明書を提示させ、その職員の所属と氏名、電話番号を確認し、記録します。
日ごろから、家族や従業員には税務職員が突然やってきても、調査に応ずる必要がないことを知らせておきましょう。突然の調査を断っても罰則の適用はありません。その日の調査は受けられないだけで、調査を拒否するわけではないからです。
後日、日程の調整をしたうえで、事前通知を受けることになりますが、税務職員には必ず事前通知をしないこととした理由を説明させるようにしましょう。この場合、口頭ではなく書面により求めることが大切です。
Q13 税務署が勝手に得意先に調査に入りました。どうすればよいですか。
A13 取引先や金融機関に調査に入ることを、反面調査といいます。
そもそも、納税者の了解もなく反面調査を行うことは納税者と取引先との信頼関係や人間関係を損ない、取引停止さえ起こることもあり、調査が納税者の営業を妨害することになりかねません。
反面調査について国税庁は税務運営方針で、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする」として、反面調査は、本来の税務調査でわからなかった場合や確認が必要な場合に、補充的に、限定的に(行うものだということを認めています。 もし、得意先に反面調査が入ったら、税務署と担当官に即座に抗議をし、中止を求めるようにします。この際、電話による抗議だけでなく、書面により抗議をし、調査の手法を改めるよう申し入れることが重要です。
税務調査の最初の段階で、税務職員に対し、納税者の承諾を得ないで勝手に反面調査をしないように主張し、そのことを確認するようにしておきます。
また、取引先に調査が入り、その反面調査として税務職員が訪れた場合は、事前の通知を求め、突然の調査は断ります。もちろん、反面調査も任意調査ですから、日時・場所の変更を申し出ることは当然にできます。その際、調査対象の相手先や調査の目的、理由を税務職員に確認するようにしましょう。
Q14 新国税通則法には、実際の税務調査を進めるうえで新しく「提示」「提出」が付け加えられましたが、どのような意味があるのでしょうか。
A14 今回、国税通則法の中に新しく税務調査の手続きに関する規定ができ、これまで各税法に置かれていた質問検査権の規定が国税通則法に一本化されました。その際、これまでの「質問し……検査することができる」と規定されていたものに、「当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる」ことが付け加えられました。
すなわち、調査において質問・検査する場合に、検査対象の物件の提示・提出を要求することができると規定されたのです。
具体的には、帳簿書類その他の物件(その写しを含む)の「提示」とは、納税者が帳簿書類等を手に持って見せる行為であり、「提出」とは、提示された帳簿書類等を税務職員が手に取って閲覧できる状態にするということです。ここで規定している「提示」「提出」は、実地調査を受ける調査場所の中(納税者の事務所等)で行われるものです。
この提示・提出要求に対し「正当な理由がなくこれに応じない」場合、及び偽りの記載や記録をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が設けられています。
しかし、任意調査の下ではすべて納税者の承諾と協力が前提になるので、納税者の承諾なしに強制的に提出させることはできません。
この点について衆議院財務金融委員会において国税庁次長も「罰則をもって強権的に提示・提出要求をすることは考えておりません。あくまで納税者の方々のご理解、ご協力が得られるように努めまして、その承諾のもとに行うという従来の運用を変更することは考えておりません。」と政府答弁をしています。
事業に支障があるものやプライバシーの侵害になるようなものについては理由を示して提示・提出要求をきっぱりと断ることが必要です。
医者の場合のカルテや弁護士の依頼者の相談内容などは、職業上の守秘義務が正当な拒否理由になります。
事業に関係ない個人の預金通帳などは、そもそも調査の対象となる帳簿書類その他の物件には該当しませんので、きっぱりと断りましょう。
一方、帳簿や請求書等を提示しなかった場合には、帳簿等の保存がないとして、税務署が消費税の仕入税額控除を否認する危険もありえますので、この点に十分注意した対応が必要です。
Q15 提出した物件を「留置く(とめおく)」ことができるという規定ができましたが、何でも持ち帰ることができるのでしょうか。
A15 「必要があるとき」は納税者の承諾により任意に提出された物件について税務署の庁舎内に持ち帰り「留置く(とめおく)」ことができるという規定が新たに設けられました。税務職員が帳簿書類等を税務署に持ち帰ることを法律用語で「留置き(とめおき)」といいます。
国税庁は「留置き」に関して、「帳簿書類等の留置きは、必要性を説明した上で、納税者の方の理解と協力の下、承諾を得て行うものであるから、承諾なく留め置くことはありません。」と解説しています。
任意調査である以上当然のことですが、税務職員は納税者が「提出」した帳簿書類等を納税者に断りなく、勝手に持ち帰ることはできません。
また、法令上も「留置き(とめおき)」を断ることができ、断っても罰則の適用はありません。
なお、留め置いた物件の返還については、「留め置く必要がなくなったときは、遅滞なく、これを返還しなければならない」とされています。
留め置くにあたっては「善良な管理者の注意をもって管理しなければならない」と規定されており、紛失や変形は善管注意義務違反となります。
また、これまで物件を持ち帰るときは慣習として「預り証」を発行していましたが、新国税通則法では法律上「留置きに関し必要な事項を記載した書面」を作成・交付することが義務付けられています。
Q16 帳簿のコピーを求められたり、パソコンのデータを持ち帰りたいといわれたら、どうすればよいですか。
A16 提示・提出要求の対象となる物件は、法律にカッコ書きで「(その写しを含む)」とあり、提示または提出する場合は、物件の原本ではなくコピーも含むとされています。
税務職員がコピーの「提出」を求めた場合には、まず税務調査で必要とする理由を確認するようにしましょう。必要な理由が納得できれば、コピーをすることを検討することもあります。しかし、税務職員が、任意に提出されたコピーを持って帰る行為は「留置き(とめおき)」になりますから、納税者の承諾を必要とします。この際、納税者がコピーの持ち帰りに承諾しなくても罰則の適用はありません。
問題は、税務職員が原本を調査した後で、そのコピーがほしいという場合です。これは、法律の予定する提示・提出・留置きの適用外のことですので、当然に断ることができます。
なお、納税者側から、調査の途中で質問への回答書や説明書を税務職員に提出する場合がありますが、これは調査の対象となる物件ではありませんので、もともと「留(とめ)置き(おき)」の対象ではありません。
また、納税者が作成したパソコン内のデータは、質問検査権の「帳簿書類その他の物件」には該当しません。パソコンのデータは申告の基礎となる帳簿ではありませんから、検査の対象とはなりません。印刷物による検査を求めましょう。データの持ち帰り、パソコンの閲覧もきっぱりと断ることが肝要です。
Q17 調査が終わったときの手続きはどう変わったのでしょうか。修正申告の勧奨が法律に規定されたということですが修正申告を強要されることはありませんか。
A17 調査が終了した場合、修正事項があるかないかで、その手続きは異なります。
① 申告に問題がない場合
調査の結果、問題がなく正しい申告と認められれば、書面で「更正決定等すべきと認められない旨」の通知があります。いわゆる「申告是認通知」です。非違事項があっても少額などのため指導となって修正にならないような場合であっても、この通知があります。
② 更正決定をすべきと認められる場合
税務職員には、調査結果の内容、具体的には追加の税額およびその理由を説明することが義務付けられ、簡易な書面で説明することが予定されています。この説明をするときに、「修正申告を勧奨することができる」こととしました。
③ 納税者が勧奨により修正申告書を提出する場合
税務職員は納税者に対し、修正申告をした場合は「不服申立てをすることはできないが更正の請求はすることができる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない」とされました。税務職員は、税務署で作成した文書を納税者に渡して説明することになっています。
④ 納税者が修正申告書を提出しない場合
調査結果の内容説明を受けて、税務署長は更正処分を行うことになります。更正処分には必ず処分の理由が附記されます。
今まで慣習的に行われていた終了通知や修正申告の勧奨(慫慂)に法的根拠を与えたものですが、修正申告については「勧奨することができる」と規定しているに過ぎず、修正申告を強要するための規定ではありません。
Q18 新国税通則法ではあらゆる処分に理由附記が義務付けられました。これは納税者の権利を保護するために有効でしょうか。
A18 納税者が税務署の修正申告の勧奨を受け入れず、更正処分を受ける場合、これまで処分理由の附記は青色申告者にのみ義務付けられていたものが、新国税通則法では青白に関係なくすべての処分に理由を附記することが義務付けられました。
処分の理由が明らかにされることは、納税者がその処分に納得するか不服申立てを行うかを判断するうえで不可欠なものですから、その判断に役立つように具体的でわかりやすい表現で理由を附記すべきことはいうまでもありません。
なお、白色申告者に推計課税が適用できることは見直されていないため、白色申告者に対する処分理由はこれまでの手法である「同業者比率」などを用いることが考えられます。しかし、「同業者比率」などを処分理由に用いることは法改正の趣旨に反するばかりか、いたずらに税務行政を混乱させることになりかねません。具体的でわかりやすい理由を附記するよう要求していくことが重要です。
Q19 納税者がする減額の請求が1年から5年に延びましたが、これは納税者の権利保護に有効なのでしょうか。
A19 これまで、税務署長による更正処分は3年なのに対し、納税者からの減額請求は1年しかできませんでした。この不平等をなくすことは納税者の権利保護にとって重要でしたので、権利の拡大になるものです。
ところが、「更正の請求書」に「偽りの記載」をした場合は1年以上の懲役又は50万円以下の罰金が科せられるという規定が設けられます。新設された罰則規定は行政側の負担軽減を図る目的で設けられたもので、納税者を萎縮させ、更正の請求を制限することになりかねません。
税の軽減を請求する権利救済制度に罰則を付けることは基本的人権の侵害になりかねず、諸外国にもない規定です。
なお、更正の請求に対する通知処分に対しては、不服申立をすることができます。
Q20 諸外国では禁(きん)反言(はんげん)の原則から、調査終了後はふたたび同じ期間の調査はできないことが法律に規定されているとのことですが、新国税通則法ではどのようになっているのでしょうか。
A20 新国税通則法では再調査を禁止する規定は存在しません。それどころか、新国税通則法では「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは」再調査ができると規定しています。
もともと国税通則法にも再更正の規定があったことから、その前提となる再調査が認められていたともいえます。わが国の納税者は徴収権の消滅時効(通常は法定納期限から5年経過)完成まで、相変わらず極めて不安定な状態に置かれていることになります。
Q21 今回、零細な白色申告者にも記帳義務が課されることになりましたが、その狙いはどこにあるのでしょうか。
A21 これまで、白色申告者のうち前々年又は前年の所得金額が300万円以下の納税者には記帳義務が課されていませんでした。今回の国税通則法の見直しとあわせて所得税法も修正され、零細な事業者を含めすすべての白色申告者に記帳義務・記録保存義務が拡大されています。
政府は零細な事業者まで記帳義務を拡大した理由として、白色申告者の処分にも理由を附記することになったからと説明しています。すなわち、理由附記をするからには根拠となる帳簿がなければできないというのです。
白色申告者の記帳義務違反には罰則規定はありません。「実質的な罰則」として推計課税が用意されていますが、理由附記と記帳義務については関係ありません。
むしろ消費税増税の動きと関連があるとみる必要があるでしょう。消費税では帳簿等の保存がない場合、仕入税額控除を否認することができるとされています。
記帳義務が法定化されているにもかかわらず、その記帳・保存がない場合は、仕入税額控除否認の根拠となるとしているのです。そのために零細事業者まで記帳義務を拡大したと考えられ、消費税の仕入税額控除否認という罰則が用意されていることに注意する必要があるでしょう。
Q22 2013年1月の新国税通則法施行以降、税務署は「行政指導」 「呼び出し調査(実地以外の調査)」 「質問応答記録書」といった手法をこれまで以上に積極的に用いて納税者への接触を図っていると聞きますが、これらも新国税通則法施行に関係する動きですか。
A22 新国税通則法による税務調査手続きが始まった平成24事務年度(2012年7月から翌年6月)の実地調査は全国で3割減の約7万件になっています。その理由は税務職員の事務負担の増加が主な原因といわれています。
国税庁は「納税者との接触率が低下すると申告水準や納税意識が低下する」として、2013年7月の事務運営指針で「多様な手法を組み合わせた取り組み」を打ち出しました。
この新たな指針によりこれまで以上に多用されるようになったのが、「行政指導」や「呼び出し調査」の活用、さらに、税務職員と納税者のやり取りを記録し、裁判になった際に税務署側にとっては自白調書として利用できる「質問応答記録書」の作成です。
今後、これらのやり方に直面する納税者が大幅に増えると見込まれることから、それぞれの手法の特徴と適切な対処方法を事前に学習しておくことが大切です。
Q23 「行政指導」とはどのような手法で、納税者はどのように対処すべきですか。
A23 税務署が言う「行政指導」とは、①申告等の際に添付すべき書類が添付されていない場合や記載漏れがある場合にその自発的提出や修正を促す行為、②申告誤りが疑われる場合にその自発的修正を促す行為、とされています。具体的には「○○○○についてのお尋ね」などの表題で書類の提出等を求める文書が税務署から送られてきます。いわゆる「お尋ね文書」といわれる書類です。
「納税者の自発的対応を促す」と言いながら、提出が無いと調査に移行する場合もあり、事実上、提出を強要する文書になっています。
しかし、行政指導について規定する行政手続法では「行政指導はあくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」とされています。行政指導は納税者の「自発的」対応を求める税務署の行為です。納税者がその指導に従うか否かは任意であり、また、税務署長は対応できなかった納税者に対して不利益な扱いをすることはできません。
対応できない場合は、はっきりと対応できない旨をお尋ね文書を出した税務署に伝えましょう。
Q24 「呼び出し調査」とはどのような調査で、納税者はどのように対処すべきですか。
A24 「呼び出し調査」とは、税務署が納税者を税務署に呼び出して行う税務調査です。呼び出し調査では「○○税の申告について」というような表題で、調査する旨と来署日時が記された書面が納税者に送られてきます。この書面はQ23で触れた行政指導文書と書式が似ていますが、行政指導文書のように納税者の任意の対応を求めるものではなく、あくまで税務調査の実施を通知する文書です。したがって正当な理由なくこれを拒否すると、不利益な扱いを受けることになり得策ではありません。
呼び出し日時は書面で指定されていますが、都合による日時の変更は可能です。仕事などの都合に合わせてもらうことはもちろんのこと、調査の準備に必要な時間を十分に確保した日程を決定するようにしましょう。
なお、国税庁は「事前通知は実地調査の場合に行う」そして「実地調査とは税務職員が納税者の事業所等を訪問(臨場)して行う調査」としています。つまり、呼び出し調査では事前通知は行わないということです。しかし、法律に規定する税務調査の定義を国税庁の通達で定め、呼び出し調査に事前通知しないのは、税務調査をする際に11項目を事前に通知することとした新国税通則法の趣旨に反することから改善すべきです。
呼び出し調査であっても事前通知を求めるなど、国税庁の解釈を改めさせる取り組みを全国的に広げる必要があります。
Q25 「質問応答記録書」とはどのような書類で、納税者はどのように対処すべきですか。
A25 「質問応答記録書」とは、税務調査の際に税務職員が納税者とのやり取りを記録した書類です。内容が読み聞かされ、間違いなければ納税者に署名捺印が求められます。刑事事件の取り調べで作成される供述調書のイメージに近い書類です。
国税庁は、新国税通則法施行後この質問応答記録書を全国統一様式として定め、税務調査の際に作成するように指示しています。
これまでも、「申述書」など納税者自ら記述するという書類はありましたが、税務に関する裁判では「無理やり書かされた」など証拠として採用されないことが多くあったことから、国税庁は質問応答記録書という様式に統一しました。これは本人の自白調書として裁判にも耐えうる証拠にすることを目的としています。
刑事事件では、刑事訴訟法により被疑者は供述を拒むこともできるし調書への署名捺印を拒むことが認められています。しかし、質問応答記録書は法的に作成が義務付けられているものではありません。法的根拠のない質問応答記録書は、税務職員による作為的な作文になる可能性もあり得ます。
質問応答記録書は法的に作成が義務づけられているものではありませんので、応答者となる納税者には署名捺印の義務はありません。納税者が署名捺印した質問応答記録書は税務署にとって重要な証拠となります。読み聞かせを受けてもすぐに署名捺印はせず、内容を吟味し納得できない場合はきっぱりと断りましょう。
Q26 「行政指導」や「呼び出し調査」、「質問応答記録書」をどのようにとらえたらよいですか。
A26 課税当局は、新国税通則法により導入された税務調査手続きについて、「非常な負担を強いられる規定」と考えているようです。例えば、税務調査をするには、原則として11項目を納税者やその代理人である税理士に事前通知しなければなりませんし、調査終了にあたっては納税者に対する説明責任が課せられるようになりました。
そこで、課税庁は行政指導という手法をより積極的に活用し、さらに、税務調査を、実地調査とそれ以外の調査に分け、課税庁に課せられた法的な義務をできるだけ省略するという手法を普及させようとしています。さらに「質問応答記録書」で納税者の「自白」を取ることにより説明を省略するという手法を普及させようとしています。
広辞苑では「実地」の意味を、「実際の場所」または「実際の場合」としています。「実地の調査」を「実際の場合の調査」と正しく解すと、税務職員が納税者を呼び出して - ①納税者等に質問すること、②帳簿書類等を検査すること、③書類等の提示や提出を求めること - そのものが「実地の調査」と解釈することができ、呼び出し調査であっても課税庁には11項目の事前通知を行う義務があるといえます。
新国税通則法に規定された税務調査手続きを骨抜きにし、「仏つくって魂入れず」というようなことを許してはなりません。私たちは、納税者権利保護の法制化に向けて、税務調査手続き規定を納税者の立場で解釈し行動していく必要があります。