TCフォーラム研究報告2025年1号(2025年3月公表)
TCフォーラム研究報告2025年1号【2025年3月公表】
税務のデジタル化で迫りくる「記入済み申告」時代
~求められる税務支援業務の自由化~
石村耕治(TCフォーラム共同代表/白鷗大学名誉教授)
「記入済み申告(pre-filling return)」の言葉を初めて耳にする人もいるかも知れません。しかし、周辺国では、すでに韓国や台湾、オーストラリアなどで導入しています。対象となる税金は、個人所得税、消費税、法人税、住民税など多岐にわたります。
アメリカでも久しく、記入済み申告の導入が模索されてきました。そして、ついに2025年1月に、2024年分個人所得税の確定申告から本格導入されました。名称は「ダイレクトファイル(Direct File)」です。
記入済み申告については、申告納税ではなく、賦課課税ではないかなど、賛否がわかれます。わが国でも、国税庁は、所得税について「書かない確定申告」の名称での導入計画をアナウンスしています。〝確定〟という文字を入れているのは、記入済み申告は、申告納税にあたるとのスタンスを強調するためと見られます。
記入済み申告は、所得税だけでなく、消費税でも、進むのではないでしょうか。消費税のぺポル式デジタル(電子)インボイスの導入はその前兆です。現在のデジタル(電子)インボイスは、必ずしも〝ぺポル式〟ではありません。EU(欧州連合)発祥のぺポル式は、「記入済み電子消費税申告」にリンクするデザインです。生成AI(人工知能)など高度の先端技術を駆使し、24時間自動税務調査システムの導入も可能です。納税者の権利には赤信号がともる、手ごわいシステムです。アナログ万歳の税務専門職にも「未知との遭遇」になるはずです。納税者団体は、納税者の権利保護に後ろ向きのわが国がこうしたシステムを使うことにもっと警鐘を鳴らす必要があります。そのための学びは必須です。
アメリカのトランプ2.0(第2次)政権は、「関税」を武器に、次々と手荒い政策を実施し出しました。報復関税、相互関税(reciprocal tariffs)で貿易相手国に脅しをかけています。輸出免税(ゼロ税率)の消費税(VAT/GST)も輸出補助金と見て、報復関税のターゲットにするといいます。
わが国政府は、インフレで苦しむ生活者の消費税負担増加(インフレ増税)を放置することで税収増を狙っています。その一方で、輸出で潤う大企業には濡れ手に粟、消費税の莫大な額の還付をしています。アメリカから関税で報復を受けないためにも、こうした消費税課税の掛け方の見直しは急務です。
また、トランプ2.0政権は、サービス取引などに対する「非関税障壁」も、報復関税にターゲットにする構えです。税理士法(業法)を使って、無償の税務サービスまで政府規制するわが国のガラパゴス化した政策は急いで見直さないといけません。助け合い、学び合いの無償の税務支援にまで政府規制で脅しをかける政策は、納税者の権利利益を後回しにするたけでなく、税務専門職を課税庁の忠実な〝お手伝いさん〟でないと生きられなくしてしまいます。生成AIを駆使した記入済み電子申告や税務調査の自動化、生成AI税務ロボットによる税務相談も一般化してくるはずです。迫りくる税務のデジタル化の激流に、アナログ対応の業法(竹槍)で対峙する政策はあまりにも時代遅れです。
今回の研究報告では、アメリカの記入済み申告がどのような仕組みなのか、そして、ぺポル式消費税のデジタル(電子)インボイスが記入済み申告とどのようにリンクするのかなどについて、わが国の実情を含め、わかりやすく紹介しています。学んでください。