TCフォーラム研究報告2023年3号【2023年5月18日公表】

TCフォーラム研究報告2023年3号【2023年5月18日公表

農業関連特例・激変緩和措置と零細農家のインボイス登録の要否
~消費税インボイス制度と課税仕入れの定義の再点検を含めて
石村耕治(TCフォーラム共同代表・白鷗大学名誉教授)

消費税のインボイス制度(いわゆる適格請求書等保存方式)が、2023(令和5)年10月1日からはじまる。そもそも、インボイス制度への転換は、零細の免税事業者から益税を吸い上げることがねらいである。ある意味では、零細事業者を狙い撃ちした恒常的な大増税である。増税額は、年2,840億円にもなると見積もられている。

インボイス制度の問題の発端は、免税事業者は、インボイスを発行できないから、商取引からはじかれる。課税事業者にならないと、簡易課税の選択もできないというふれこみにあった。ところが、政府・財税当局は、インボイス制度開始が迫るなか、「激変緩和措置」など特例を次々と打ち出してきた。

事業者のなかには、インボイス発行事業者登録の届出をし、登録通知書をもらったのは早とちり、免税事業者である方が得とわかった人も少なくない。今年10月1日の開始前までは、申請取下げができる。10月以降の登録取消は手続が煩雑・影響が大きいので、申請取下げをすることにした。けれもど、定型の様式はなし。しかも、申請先は、税務署ではなく、インボイス登録センターだということで、混乱する零細事業者が少なくない。

本報告では、「零細農家・インボイス制度の農業関連特例、激変緩和措置」を素材にして、免税事業者の地位継続か、登録事業者の選択かの具体的な対応策を簡潔に点検している

緊急対応措置などで、インボイス制度は、複雑怪奇な制度に様変わりした。「簡素・効率」を求める租税原則、憲法が保障する租税法律主義から派生する納税者に保障される法的安定性・予測可能性を著しくむしばんでいる。

カナダのように、中小零細事業者の納税者の税務協力費(コンプライアンスコスト)の最小化の権利利益の保護も視野に入れた納税者権利憲章の制定・発布は待ったなしである。

この研究報告では、同時に、インボイス(適格請求書等)を保持しない免税事業者や消費者からの仕入れにかかるみなし仕入税額控除は、消費税法の「課税仕入れ」の定義上どう考えたらよいのかについても分析している。一読されたい。