TCフォーラム意見書【2023年3月1日(3月3日微訂正)】

TCフォーラム:税理士等でない者に対する税務相談停止命令制度創設等への反対・廃案を求める意見書/対案:税理士業務(税務相談及び税務書類の作成)を有償独占化するための税理士法改正案

納税者権利憲章をつくる会/TCフォーラムは、第211回通常国会に提出された税理士法改正法案に盛られた「税理士等でない者に対する税務相談停止命令制度創設等」に反対し、意見書を発表し、税理士法改正法案の廃案を求める。

対案として、納税者権利憲章をつくる会/TCフォーラムは、「税理士業務(税務相談及び税務書類の作成)を有償独占化するための税理士法改正案(仮称)」を公表する。

2023年度税制改正の一環として、税理士等でない者に対する税務相談停止命令制度創設等のための税理士法改正が提案されています。

今回新たに税理士法改正法案に盛られた税務相談停止命令制度は、❶税理士等でない者が、有償か無償かを問わず、❷「税務相談」を行った場合で、❸「更に反復して」行われ、❹不正に国税や地方税の賦課・徴収を免れさせ、又は不正還付をさせることにより、納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するため、❺財務大臣が、緊急に措置を取る必要があると認めるときは、➏国税庁長官が、❺のための調査する必要性があると認めるときは、相談を行った者への報告徴収、または国税庁・税務署職員による質問・検査を実施し、❼財務大臣は停止等必要な措置を命じることができる、というつくりになっています。

加えて、税理士等でない者は、財務大臣の命令に従わなければ、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される。国税庁・税務署の質問検査を拒否したり、虚偽の答弁を行った場合には、30万円以下の罰金が科されます。また、税理士等でない者に発せられた命令の内容は、官報に公告することに加えインターネットでも3年間公表されます。

財務省の担当者は、この法案提出の背景として、コンサルタントを名乗り、インターネット、SNS/交流サイトを使ったリモート(遠隔)やリアル(対面)の形でセミナーを開き、不特定多数に脱税や不正還付の方法を指南して手数料を取るなどの事例が散見されることから、納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼす相談活動を防止するための措置が必要、と説明しています。

しかし、この説明には大きな疑問符が付きます。もし、そうであるならば、規制の対象を、税理士等でない者による「有償の税務相談」ないし「営利目的での税務相談」に限定することで足りるからです。弁護士法などにならい、税理士業務のうち、現在無償独占とされる「税務相談」や「税務書類の作成」を有償独占にする税理士法改正をすれば十分なわけです。

ところが、そうした法対応をしないで、税理士業務の無償独占を強化する形で、税務相談停止命令制度を導入しようというわけです。

今回の税務相談停止命令制度は、行政の規制権限を強化し、その運用の仕方次第では、申告納税制度自体を根底から揺るがしかねません。なぜならば、停止命令は、助け合いの絆を大事にし、申告納税制度を無償/ボランティアで支え合おうとする税理士等でない個人や団体を標的に、かたよって出され、ひいては国民・納税者の権利利益をむしばみかねないからです。

税金や税務申告について知見の豊かではない小規模企業者、自営業者や年金受給者その他雇用類似の働き方をする人たち(ギグワーカー)がたくさんいます。こうした社会的・経済的に立場の弱い人たちは、税金について常に学び合える場(フォーラム)を求めています。こうした学び合いの場の確保は、自発的な納税協力・自主申告を進めるには必要不可欠です。ところが、税務相談停止命令制度では、「市民・納税者が税務相談をしあうのはタダでもまかりならぬ!」となり、こうした人たちの真の税の学びの場の確保を危うくしかねないわけです。

税務相談停止命令の標的は、共犯(共同正犯)などを問われる場合は別として、原則として「税理士等でない者」です。このことは、社会的・経済的に立場の弱い人たちに税の学習の場を提供し、無償で申告の支援する税理士等でない個人や団体を標的、犯罪視することにつながりかねないわけです。

本報告書で詳しく分析したように、今回の税理士法改正法案は、実社会の通念や実務慣行などを精査し的確に反映したものではありません。また、政府規制緩和の要請にも反し、正当な立法理由がありません。

加えて、税務相談停止命令制度には、規制立法として容認できないような多くの欠陥や重大な問題をはらんでいます。こうした欠陥立法の成立は決して許されません。

納税者権利憲章をつくる会/TCフォーラムは、納税者権利憲章を制定・発布し、「課税庁の文化」を変え、「国民・納税者が主役」の申告納税制度にしないといけない、と主張してきました。国民・納税者が主役の自発的な納税協力・自主申告には、とりわけ社会的・経済的に弱い立場の人たちの税の学び合いや助け合いの場の確保は、必要不可欠だと説いてきました。「市民・納税者が税務相談をしあうのはタダでもまかりならぬ!」の税務相談停止命令制度は、私たち納税者権利憲章をつくる会/TCフォーラムの主張と正面からぶつかります。

この停止命令制度は、税理士等の守護神のようにふるまう税務当局に、むき出しの権力行使を無制限に容認することにつながります。税理士法は、本来、納税者の権利利益を護ってくれる税務専門職の集団を規律する法でないといけません。税務相談停止命令制度は、明らかに税理士法に不具合です。そもそも、税理士等を徴税機関の一翼のような位置づけをし、今回の停止命令制度を置くような法政策は改められないといけません。

納税者権利憲章をつくる会/TCフォーラムは、税理士法改正法案に盛られた税理士業務(税務相談及び税務書類の作成)の無償独占強化に根差した「税理士等でない者に対する税務相談停止命令制度」に反対します。意見書を発表し、税理士法改正法案の廃案を求めます。

対案として、国民主権・民主主義に根差した申告納税制度を目指す「税理士業務(税務相談及び税務書類の作成)を有償独占化するための税理士法改正案」(仮称)を公表します。