TCフォーラム研究報告2022年6号
TCフォーラム研究報告2022年6号
通達による「業務に係る雑所得」区分の明確化と租税法律主義
~シェアリングエコノミー対応での「所得税基通35-2の改正」とは~
石村耕治(TCフォ-ラム共同代表/白鷗大学名誉教授)
国税庁は、「副業収入」をターゲットに、納税者に適正な申告を促そうとしている。具体的には、シェアリングエコノミー等の活発化に伴い、片手間で作成した物をアプリ販売して得た収入、アフィリエイトで得た広告収入、休日にウーバーイーツで稼いだ収入などがターゲットである。数年前から、国税庁は、申告漏れが指摘される分野に「業務に係る雑所得」というカテゴリーを設け、「通達」なども総動員して、漏れなく捕捉できるように様々な仕組みを整備してきている。
国税庁は、2022年8月1日から8月31日の期間で、「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)」を公表し、所得税基通35-2の改正(原)案に対する意見公募(パブリックコメント)を実施した。
この意見公募は、近年注目のシェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「業務に係る雑所得」、つまり“副業・兼業にかかる収入/所得”を主なターゲットに、課税庁/国税庁主導で、課税や申告の適正化を図ることが目的である。具体的には、300万円以下の副業収入の層を「業務に係る雑所得」に囲い込むための形式基準や、雑所得か事業所得かの判定にあたり、通達を使った「社会通念」のような概括概念の採用による税務執行体制への“公正さを取り繕うこと”が狙いである。
意見公募手続には、7,059もの意見が寄せられた。寄せられた公募意見(パブコメ)も織り込んで、国税庁は、2022年10月7日に、改正所得税基本通達35-2(改正通達)を発出し、「業務に係る雑所得」の判定方法、基準を明らかにした。同時に「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」(「改正通達の解説」)も公表した。改正通達の解説では、自分らに都合のよい「業務」にかかる収入/所得に係る課税取扱いや法令の適用・解釈などを満載している。
今回のTCフォーラム研究報告2022年6号は、「業務に係る雑所得」区分の明確化のための通達改正プロセスおよび改正された通達の中身を批判的に点検したものである。まず、「業務に係る雑所得」の所在について点検している。次いで、①形式基準の採用による税務執行、具体的には❶収入金額300万円以下、❷収入金書1,000万円超、②納税環境の整備/納税者のコンプライアンス(自発的納税協力)の仕組み、具体的には❶帳簿作成・帳簿書類の保存、❷収支報告書の作成・提出などについて点検している。その後、通達による「副業に係る所得」区分の明確化と租税法律主義の課題について点検している。
2022年分の所得税の確定申告にも深くかかわる研究報告である。改正通達を憲法論から精査している。納税者の権利利益ファーストの視点から今回の通達課税の問題点を問うている。是非とも一読されたい。