TCフォーラム研究報告2025年2号(2025年3月公表)
TCフォーラム研究報告2025年2号【2025年3月公表】
トランプ2.0政権の自国第一課税政策を読む
~「相互関税」の導入と国際デジタル課税枠組みからの離脱~
租税法律主義、予算法律主義と大統領令の法的所在
手荒いトランプ政策のインサイド分析を含めて
石村耕治(TCフォーラム共同代表/白鷗大学名誉教授)
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「アメリカファースト(自国第一)」を掲げるトランプ2.0(第2次)政権が発足しました。政権の閣僚には、ビジネス・マネーファーストの政財界人、テクノリバタリアン、トランプイズムを信奉する異端な人たちが就きました。「ムダを省く」、「破壊こそ建設なり」の号令で、無政府主義者のような集団が手荒いことをし出しました。
この政権は、「他国への無償の人道援助や軍事支援などはムダ、即停止し、再考する。対外交渉は、弱肉強食、捕食スタイルのビジネス「取引(ディール/deal)」で行う。」が基本です。大統領権限で予算支出をストップするなどやりたい放題です。アメリカの持ち出しの多い国際機関からも次々と脱退です。「法の支配」、「人権・人道」などは完全に後回しです。
再び大統領職に就いたトランプ氏は、〝関税男〟を自認します。貿易相手国をターゲットに、「通商戦争」、「関税戦争」の戦線布告をしました。政権経済関係閣僚に、貿易黒字国を対象に、〝ぼったくり実態〟の緊急調査を命じました。
「アメリカ製品やサービスに高い関税をかけている貿易相手国に、アメリカも同じ水準の『相互関税』を課す!」がトランプ政権の基本です。関税はもちろんのこと、輸入物品の規格や厳しい安全基準、専門職サービスへの政府規制、為替介入などの「非関税障壁」をやり玉にあげ、相互課税のターゲットにすると脅しをかけています。
さらに、「輸出免税(ゼロ税率)の付加価値税(VAT)/消費税も関税とみなす!」との考えです。トランプ政権のスタンスは、安易に消費税の税率引上げを狙おうとするわが国の政権には、イエローカードです。消費税の税率引上げは、回りまわって輸出ゼロ税率で棚ぼた消費税還付受けている大企業の経営も危うくしかねないのです。
貿易や関税をめぐる課題は本来、世界貿易機関(WTO)などのルールに基づいて話し合いで解決するのが筋です。残念ながら、WTOはもはや機能していません。
こんなトランプ氏の力ずくの荒療治が常態化すれば、世界経済秩序は弱肉強食の「ワイルドウエスト(荒野の西部)」になってしまいます。トランプ流の報復関税を前面に押し出した保護貿易主義は、時代錯誤なのではないでしょうか。このままでは、自由貿易体制は崩壊寸前になります。物価高や輸出への相手国からの報復関税でその返り血を浴びるのは、アメリカの消費者や農業者などです。
トランプ大統領は、G20[20か国・地域首脳会合]とOECD[経済協力開発機構]がまとめた「2001国際課税合意」にも批判的です。「国際デジタル課税」ルールから離脱する大統領令に署名しました。また、グローバル・ミニマム課税ルールのうち、軽課税所得ルール(UTPR)からの離脱を模索しています。逆に、わが国のようなUTPR導入国の企業に「相互関税」を課すという報復姿勢です。
今ある内国歳入庁(IRS=Internal Revenue Service)とは別途の、外国からの報復関税を専門に集金する「対外歳入庁(ERS=External Revenue Service)」を新たに立ち上げることになっています。ERSが集めたカネを、アメリカ国内の減税財源に充てる計画です。
トランプ氏は、民主党を支持する「エリートやリベラルなウオーク系(Woke/意識高い系)から政府を取り戻す!」のキャッチで、選挙民を分断し、大統領選挙に勝利しました。
彼の考え方や政策には指南書があります。超保守系シンクタンク・ヘリテージ財団がまとめた『プロジェクト25』 です。トランプ2.0政権が打ち出したDEI[多様性・公平性・包摂性]政策の廃止、キャリア公務員の大量解雇、進歩メディア追撃その他トランプ2.0政権の保守・反動的な政策の多くはこの指南書に基づいています。また、トランプ政策の多くは、アメリカの超保守的な法律・政治理論、考え方に基づいています。
今回の研究報告は、トランプ2.0政権に「自国第一課税政策」を分析することが主眼です。しかし、まず、プロローグとして、トランプ政権の指南書である『プロジェクト25』や保守的な法政理論、伝統的は租税法律主義や予算法律主義のもとで濫発されるいわゆる「即法」、〝大統領令〟、の法的所在などについて斬り込んで見ました。
プロローグを書いた後、トランプ2.0政権の自国第一課税政策や2021国際課税合意からの離脱方針、大統領令を支える法的典拠、仕向地主義の消費税と関税との関係などについて深堀しました。
ただ、関税戦争でトランプ大統領は、〝不確実性〟を「戦術」にしています。SNSなどを駆使し、アメリカの貿易相手国をターゲットに、〝口撃〟で戦術を日々上書きしコロコロ変更することを「武器」にしています。このため、確定稿を書くのは至難です。書き終えた直後に〝陳腐化〟しはじめるため、「1.0稿」として公表しました。
政治経済面よりも、法学的な面に力を入れて斬り込んで見ました。新たな視点から学んでください。
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わが国は、正直にいえば、対米追従、防衛ただ乗りを正当化できる「平和憲法」で、これまで繁栄してきました。「平和外交ファースト」は正道です。ただ、見方のよっては、トランプ2.0政権の誕生で、対米追従が必ずしも〝正論〟とはいえなくなりつつあります。いわば〝言うだけ番長〟でいられる〝免罪符〟のご利益が薄くなったともいえます。
いまや世界の勢力図をガラリと変える「力によるトランプ外交」が世界を圧倒しています。遺憾ですが、「ディール(取引)する価値のないような小国は捨て駒になれ!」のスタンスです。歴史の時計の針を 帝国主義時代まで巻き戻したような感じです。
石破政権は、相互関税の適用除外を懇願する土下座外交、トランプ忖度外交で逃げ切ろうとしているようにも見えます。「高関税で脅され、アメリカの1つの州になれ!」とトランプ大王に脅されたらどうするでしょうか。「御意のままに!」で、事なかれ主義に徹しようとするでしょうか。「白旗ならぬ、赤旗を掲げて近隣の権威主義国家に屈服するよりはトランプ大王の方が益し!」とは考えてないと思いますが・・・?
「政権交代」を叫ぶ野党党首はどうでしょうか?「アメリカの属国にはならない。こちらも報復関税で戦う!」で、カナダの新首相になったカーニー氏のようにふるまえるでしょうか?
私たちは久しく、アメリカ民主主義を、完璧ではないけれども、自由や人権を謳歌できる好意的なモデルと見てきました。中国やロシアなどの専制主義モデルよりは益し、と見てきました。しかし、いまやトランプ2.0政権の出現で、アメリカンモデルは他国が信頼を寄せるには、あまりにも劣化し、壊れてしまっています。
いずれにしろ、これまでのような過度なアメリカ頼りで、軽々な言葉だけで平和の舵取りを稚拙に論じるのは反省しないといけない、と思います。